建設における延焼ラインの基礎とその防火対策 ~火災時の延焼を防ぐための重要な考え方~
1. はじめに
延焼ラインとは防火地域、準防火地域、22条区域などで建物を建てるときに関係する規定です。
火災が発生すると、隣接する敷地や道路での炎の燃え移りによって、建物全体に被害が拡大する可能性があります。
建築基準法では、この隣地・隣家への火災拡大のリスクを「延焼のおそれのある部分」と定義し、図面上ではこれを「延焼ライン」として明示します。
正しい延焼ラインの設定は、防火設備の配置や建物の防火構造を検討する上で不可欠です。
2. 延焼ラインの基本概念
延焼ラインとは、火災発生時に隣地や道路からの火熱の影響で、建物内に火が延焼する危険性が高い範囲を示します。具体的な基準は以下のとおりです。
- 隣地境界線から、1階は3mまで、2階は5mまでの範囲
- 道路中心線から、1階は3mまで、2階は5mまでの範囲
- 同じ敷地内に2つ以上の建物があり、合計床面積が500㎡を超える場合は建物同士の外壁の中心線から、1階は3mまで、2階は5mまでの範囲(全ての建物の延べ面積合計が500㎡以内の場合は1つの建物とみなす)
→後述「4.隣棟間延焼線」にて詳しく説明します。
3. 防火対策と延焼ラインの関係
延焼ライン内に該当する部分は、火災発生時に他建物からの火炎が侵入するリスクが高いため、防火設備や防火構造の採用が求められます。具体例としては:
- 外壁の開口部(窓・ドア)
防火地域や耐火建築物、準耐火建築物では、延焼ライン内に位置する開口部に対して、告示仕様または大臣認定仕様に基づいた防火設備(防火戸、網入りガラスなど)の設置が必須となります。 - 外壁・軒裏の防火構造
延焼ラインにかかる部分については、外壁や軒裏に防火被覆や耐火材料を採用し、火の燃え移りを抑制する設計が必要です。
4. 隣棟間延焼線について
4.1 隣棟間延焼線の意味
敷地内に2棟以上の建築物がある場合、単一建物として扱われないため、各建物間の相互の延焼リスクを評価する必要があります。この場合、各建物の外壁同士の「中心線」を基準に延焼ラインが引かれ、1階部分は3m、2階以上は5m以内の部分が延焼のおそれのある部分となります。
4.2 注意すべきポイント
- 床面積の合計条件:
複数の建物がある場合、合計床面積が500㎡以下であれば一体とみなされ、隣棟間延焼線は発生しません。逆に500㎡を超える場合、各建物間で延焼ラインを設定する必要があります。 - 建物の配置・形状:
建物同士の外壁が平行でない場合や、外壁の長さが異なる場合は、各外壁線を延長し、交点での角度の二等分線を中心線として採用するなど、細かな判断が求められます。
5. 緩和規定について
5.1 緩和規定の背景と目的
延焼ラインの設定は、火災拡大を防ぐための重要な基準ですが、実際の敷地や周辺環境によっては、延焼リスクが低減されるケースも存在します。そこで、建築基準法には緩和規定が設けられており、特定の条件下では延焼ラインの適用範囲を縮小できるようになっています。
5.2 緩和規定が適用される条件
以下のような条件に該当する場合、延焼ラインにかかる部分として扱わなくてもよいとされています:
- 防火上有効な空地・水面:
都市計画公園、広場、川・水面など、火災時に火が伝わりにくいと認められる部分に面している場合。 - 耐火構造の壁:
隣接する建物や構造物が耐火性能を有する場合、その面に接する部分は緩和の対象となります。 - その他の類似条件:
国土交通大臣が定める条件により、通常の火災時に延焼リスクが低いと判断される部分(例えば、外壁と境界線との角度が鋭角で、通常の火災時の火熱が及ばないと判断される場合)など。
これにより、敷地の状況や周囲の環境に応じた合理的な防火対策が可能となり、過剰な防火設備の設置による経済的負担を軽減することができます。
5.3 実務上の注意点
設計時には、緩和規定を適用できる条件か否かを、事前に確認申請の審査機関と十分に打ち合わせることが重要です。緩和が認められる場合は、延焼ラインの図示や防火設備の設置について、通常よりも柔軟な対応が可能になります。ただし、条件を満たしていない場合は、厳格な基準に従った対策が必要です。
6. 延焼ライン内の外壁を貫通する換気設備について
換気設備の風道やダクトが外壁を貫通する部分は「延焼のおそれのある部分」として扱われ、防火対策が求められます。ここでは、換気設備が外壁を貫通する場合の防火対策と設置条件について解説します。
6.1 換気設備の貫通部の位置とリスク
外壁に設けられる換気口やダクトが、延焼ライン内にある場合、火災時にその貫通部を通じて火炎や高温の煙が建物内に伝播する危険があります。そのため、これらの換気設備は、以下の防火対策が必須となります。
6.2 防火ダンパー(FD)の設置
換気設備が外壁を貫通する場合、法令上は防火設備として防火ダンパー(FD)の設置が求められます。具体的には:
- 開口部の断面積の基準:
換気口のサイズが100cm²以下(100φ、110φは100cm²以下に該当)の場合は、ガラリやスチールベントキャップなどの防火覆いで対応できます。しかし、断面積が100cm²を超える(120φ以上が該当)と、より高い遮炎性能が要求され、防火ダンパーの設置が義務づけられます。 - 自動閉鎖機能:
防火ダンパーは、火災発生時に換気ダクト内の温度が急激に上昇した際、自動的に閉鎖して火炎や熱の伝播を遮断する機構が必要です。一般的には温度ヒューズが組み込まれ、72℃(火気使用部は120℃)に達すると作動します。 - 保守点検と検査口の設置:
防火ダンパーは、定期的な点検やメンテナンスが必須です。施工時には、保守点検が容易に行えるよう、天井または壁面に一辺45cm以上の点検口を設けることが求められます
製品選定時には、各メーカーの仕様書に示される開口面積に応じた対応(防火覆いかFDの選定)が必要です。具体的な数値例は、各社の製品カタログや国土交通省の告示(例:平成12年告示1369号)を参照してください
6.4 換気設備の設置時の注意事項
- 断熱・防水処理:
換気設備が外壁を貫通する部分には、火災時に火熱が伝わらないよう、断熱や防水処理、またはモルタル等の不燃材料での埋め戻しが必要です。 - 施工精度の確保:
貫通部周辺の隙間や漏れがあると、防火性能が低下するため、設置時には精度の高い施工が求められます。 - 設置位置の確認と保守計画:
施工後は、換気設備の防火ダンパーが正常に作動するか定期的な点検を実施し、必要に応じて交換や修繕を行う保守計画を策定してください。
7. まとめ
- 延焼ラインの基本:
隣地境界線や道路中心線から、1階部分は3m、2階以上は5m以内が延焼のおそれのある部分となります。 - 防火対策:
延焼ライン内に位置する窓や外壁は、告示仕様または大臣認定仕様に基づく防火設備や防火構造を採用することで、火の燃え移りを防止します。 - 隣棟間延焼線:
複数建物が存在する場合、合計床面積が500㎡を超えると、各建物間の外壁中心線から延焼ラインを引く必要があり、建物配置や形状に応じた細かな判断が求められます。 - 緩和規定:
都市計画公園、広場、川や水面、耐火構造の壁に面している場合など、火災リスクが低いと判断される部分は延焼ラインの適用が緩和され、柔軟な防火対策が可能です。
延焼ラインやその関連規定、そして内部の配管設備に対する防火対策は、火災発生時の被害を最小限に抑えるための重要なポイントです。最新の法令や実務事例、審査機関との打ち合わせを十分に行い、設計段階から万全の防火対策を実現しましょう。

