防火区画と防火区画貫通処理とは?

火災時の延焼を防止するため、建物内部には火炎や煙の伝播を抑制する「防火区画」が設けられています。しかし、配管やケーブル、ダクトなどの各種設備は、これらの防火区画を貫通する必要がある場合が多く、そのままでは防火性能が低下する恐れがあります。そこで必要になるのが「防火区画貫通処理」です。


1. 防火区画の役割と重要性

防火区画とは

防火区画とは建築基準法において、火災の発生時に燃焼拡大や延焼を防ぐために区画された壁や床のことを言います。
建物の種類や面積によって、耐火構造や準耐火構造の床、壁、防火シャッターや網入りガラスなどの防火設備などで区画を行います。

  • 目的
    1. 延焼防止:火災が発生した区画から他の区画への炎・熱・煙の拡散を抑制
    2. 避難時間確保:安全に避難するための時間を稼ぐ
    3. 消防活動支援:消防隊による鎮圧作業を円滑化
  • 法的根拠: 建築基準法およびその施行令(例:建築基準法施行令第112条など)に基づいて設置が義務付けられています。

防火区画の種類

防火区画は大きく以下の4種類に分類されます。

①面積区画

面積区画とは、一定以上の床面積を持つ建物に設けられる防火区画です。
建物の種類によって、500㎡以内、1,000㎡以内、1,500㎡以内ごとに防火区画を設置します。

  • 対象:主要構造部を耐火構造または準耐火構造とした建築物で、床面積が所定の面積を超えるもの
  • 区画面積の目安(実際の規定はかなり複雑なため、簡略化して掲載しています)
    • 床面積が500㎡以内、1,000㎡以内、1,500㎡以内ごとに区画基準が変動
    • 主要構造部を耐火構造とした建築物:床面積が1,500 m²以内になるように区画
    • 準耐火構造または特定避難時間倒壊等防止建築物(特定避難時間が1時間未満):床面積が500 m²以内になるように区画
    • 準耐火構造または特定避難時間1時間以上の建築物:床面積が1,000 m²以内になるように区画
  • 壁・床:1時間耐火性能を有する構造
  • 開口部:防火設備または特定防火設備(遮炎性能1時間)
  • 閉鎖方式:常時閉鎖式、または煙感知器連動による自動閉鎖式
  • 緩和:スプリンクラー設備を設けると、区画すべき床面積を1/2に緩和可能

②高層区画

高層区画は、面積区画の一種で、11階以上の階に設けられる防火区画です。
11階以上となるとはしご車が届かなくなってしまい、消防活動が難しくなります。
そのため、延焼をなるべく抑えられるよう面積区画よりもさらに小さく区画を行います。

  • 対象:11階以上の部分で、各階の床面積の合計が100㎡メートルを超えるもの
  • 区画方法:壁と床を階ごとに区画
  • 耐火性能
    • 耐火構造(壁・床)
    • 内装材区分に応じて、区画可能面積が変動(燃えづらい材料で内装を施すほど、延焼リスクが下がるため広く区画できる)
      • 不燃材料:床面積の合計が500㎡以内ごとに区画する
      • 準不燃材料:床面積の合計が200㎡以内ごとに区画する。
        ※床面から1.2m以下の部分は準不燃材料でなくてもよい。
      • その他:床面積100㎡以内
  • 開口部
    • 一部は防火設備、より厳しい条件では特定防火設備
  • 閉鎖方式:常時閉鎖式または感知器連動の自動閉鎖式

③竪穴区画

竪穴区画は吹き抜けや階段、昇降路(エレベーターが走行する縦穴状の空間)、ダクトスペースなどに設けられる区画です。
階段は火災発生時の避難に使われ、吹き抜けや昇降路など上下に連続した空間は火が燃え広がりやすいため、防火区画の設置が必要です。

  • 対象:地階または3階以上に居室を有し、吹抜け・階段室・昇降路・ダクトスペースなどがある建築物
  • 壁・床:準耐火構造
  • 防火設備:遮煙性能付き火報感知器連動の防火扉等
  • 閉鎖方式:常時閉鎖式または煙感知器連動の自動閉鎖式
  • 規模例外:共同住宅等で延べ面積200㎡以下の場合、一部区分が不要となるケースあり

④異種用途区画

異種用途区画は同一の建物内で映画館や病院、百貨店など不特定多数の人が利用する用途の部分(特殊建築物)と、その他の用途で使われる建物で必要な防火区画です。
特殊建築物部分とその他の用途の境界部を耐火性能を有する構造・設備で区画し、利用時間帯・利用者数・火災荷重などリスクの異なる空間同士を分離することで、隣接部分への被害拡大を抑制します

  • 対象:劇場や病院など法第27条で定める特殊建築物部分とその他用途の部分が同一建築物内にある場合
  • 壁・床:1時間準耐火構造
  • 開口部:特定防火設備(遮煙性能付き防火扉等)
  • 閉鎖方式:常時閉鎖式または感知器連動の自動閉鎖式

2. 防火区画貫通処理の必要性と基本方法

貫通処理の必要性

防火区画は、原則として火災時に一定の耐火性能を保持しますが、配管やダクト、ケーブルなどを通すために開口を設けると、隙間から火炎や高温のガスが侵入するリスクが生じ、区画全体の耐火性能が低下してしまいます。そこで、法律で定められた方法により、この開口部を不燃材料や認定工法を用いて厳密に処理することが必要です。
この防火区画を貫通する配管やケーブルなどを通すための開口部の処理を防火区画貫通処理と呼びます。区画貫通や貫通処理と呼ぶこともあります。

貫通処理の基本方法

防火区画を貫通する場合、建築基準法施行令第129条の2の4第1項第七号に示されるように、次のいずれかの方法で処理を行います。

  • イ:両側1メートル以上の不燃材料での造作
    貫通部からそれぞれ両側1メートル以上の範囲を、鋼管耐火VPなどの不燃材料で配管し、壁と管の隙間も不燃材料であるモルタルロックウール耐火パテフィブロックなどを充填し、火炎が拡大を防ぎます。
  • ロ:管の外径が、用途・材質その他の事項に応じて国土交通大臣が定める基準未満であること
    管のサイズが一定の外径以下であれば、開口部の規模が小さくなり、火災時の影響が限定的となるため、別途の大規模な不燃造作が不要とされる場合があります。
  • ハ:国土交通大臣認定の工法を用いること
    事前に耐火試験をクリアした国土交通大臣認定工法を使用することで、一定時間(例:20分、45分、または1時間)の耐火・遮炎性能が保証されます。

3. 給排水および空調換気の配管工事における防火区画貫通処理

給排水や空調換気の配管工事は、建物の機能面で非常に重要ですが、同時に防火区画を貫通するため、特有の注意点や施工方法が求められます。以下にそのポイントを解説します。

3.1 法的基準と適用例

  • 適用法令:
    給排水および空調換気の配管が防火区画(防火壁・防火床など)を貫通する場合、建築基準法施行令第129条の2の4第1項第七号に基づく処理が求められます。
    具体的には、給水管、排水管、通気管、そして空調用ダクトなどについて、上記の「イ」「ロ」「ハ」のいずれかの方法で防火処理を実施します。
  • 実例:
    たとえば、マンションやアパートなどの共同住宅では、エアコンの配管や給排水管が防火壁を貫通する際、メーカー指定の耐火パテや専用の防火用シーリング材を用いて、管と壁との間の隙間を完全に塞ぎ、耐火性能を確保します。

3.2 給排水配管特有の注意点

  • 材質と保温:
    給排水管は、塩ビ(VP)管などが多く使用されます。これらの管は比較的柔らかい材質であるため、耐火性が確保されるよう、管自体の材質に加え、管周辺の充填材(例:トモルタル、ロックウールなど)によって、火災時に隙間から火炎が侵入しないよう厳重に処理されます。
  • 施工時のポイント:
    • 隙間の充填: 給排水管が貫通する開口部は、必ずモルタルなどの不燃材料で密に充填し、隙間が生じないようにします。
    • 支持・固定: 管が防火区画内で動かないよう、適切な支持金具や固定具を用いてしっかりと支持します。
    • 認定工法の採用: 既存の大臣認定工法やメーカー指定の工法に基づいた施工が行われることが重要です。

3.3 空調換気配管(ダクト)特有の注意点

  • ダクトの材質:
    空調や換気のダクトは、一般的に金属製のものが使用され、その外装には断熱材や耐火被覆が施されることが多いです。これにより、火災時に外部への火炎伝播を防ぎます。
  • 防火ダンパーの設置:
    ダクトが防火区画を貫通する場合、火災時に自動的に閉鎖する防火ダンパー(FD)を設置することが求められる場合があります。これにより、炎や煙の侵入を更に抑制します。
  • 施工上の留意点:
    • 密閉性の確保: ダクトと防火区画の接合部は、専用の耐火シーリング材や金属製のカバーを用いて、密閉状態を維持する必要があります。
    • 定期点検: 空調ダクトの貫通部は、施工後も定期的に点検し、シール材の劣化や剥離がないか確認することが重要です。

3.4 施工と検査のポイント

  • 専門家との連携:
    給排水・空調換気の配管工事において防火区画貫通処理を行う際は、設計者、施工者、検査機関が十分に連携し、施工前後の確認を徹底することが必要です。
  • 法令・メーカー指示の遵守:
    最新の法令や各メーカーが提示する施工要領に従い、認定済みの材料・工法を採用することが求められます。
    また、施工後は認定シールや性能試験結果の確認を行い、万一の不具合に備えた補修計画を立てることも重要です。
  • 定期点検とメンテナンス:
    配管貫通部は、火災時のみならず日常の経年劣化や外部衝撃により、シーリング材が劣化する場合があります。定期点検により、必要に応じた再施工・補修を実施することが、防火性能の維持につながります。

4. まとめ

防火区画は、建物の火災時における延焼防止の基礎となる重要な構造ですが、給排水や空調換気の配管工事では、これらのシステムが防火区画を貫通するため、特有の防火処理が必要となります。
具体的には、管の材質やサイズ、保温材の有無に応じた密閉施工や、防火ダンパーの設置など、施工前の計画、施工中の厳密な品質管理、そして施工後の定期点検が不可欠です。
設計者・施工者・管理者が最新の法令やメーカーの認定工法を正しく理解し、適切な措置を講じることで、万が一の火災時にも建物全体の安全性を確保することができます。

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