屋内避難階段の役割と設置基準 ~安全な避難経路確保のための基本知識~
はじめに
災害時において、建物内の人々が安全に外へ避難できるかどうかは、その建物の避難経路の確保が鍵となります。特に、屋内に設けられる避難階段は、火災や地震などの緊急時において、確実かつ迅速に人々を地上へと導くための重要な設備です。本記事では、屋内避難階段の基本的な役割や、建築基準法に基づく設置基準、設計時に注意すべきポイント、そして開口部の制限について解説します。
屋内避難階段とは
屋内避難階段とは、建物内に設置され、災害発生時に利用者が安全に地上へ避難できるように設計された直通階段です。
- 防火性能の向上
屋内避難階段は、耐火構造の壁で囲まれており、火災時の延焼を防ぐための重要な役割を担います。 - 採光・照明の確保
階段室内には採光性の高い窓や、非常時に自動点灯する照明設備が設置され、暗闇の中でも視認性を確保できるようになっています。 - 直通性
地上階までの直通の避難経路となるため、迂回路がなく、混雑時でも効率的に避難できる設計が求められます。
屋内避難階段の設置基準と構造
建築基準法施行令第123条に見る屋内避難階段の基本構造
屋内避難階段は、建築基準法施行令第123条に基づき、次のような構造要件を満たす必要があります。
- 耐火構造の壁で囲む
階段室は、窓や出入口など一部の開口部を除き、すべて耐火構造の壁で囲む必要があります。 - 不燃材料の内装
天井や壁の内側は、不燃材料を使用して仕上げることで、火災時の安全性を確保します。 - 採光・照明設備
階段室には、十分な採光を確保する窓または予備電源付きの照明設備が設置されます。 - 出入口の防火設備
屋内から階段へ通ずる出入口には、火災時に自動閉鎖する防火戸など、法定の防火設備が設けられなければなりません。 - 直通性の確保
階段自体は耐火構造で、避難階まで直通する設計となっており、避難時の迂回を防ぎます。
これらの基準は、利用者が火災や煙にさらされることなく、安全に避難できる環境を実現するために不可欠です。
防火区画の一種である竪穴区画は準耐火構造で良いのに対して、屋内避難階段はすべて耐火構造でなければならないため、より高い耐火性能を要します。
屋内避難階段の設計上のポイント
- 避難経路の明確化
屋内避難階段は、各階の居室からの歩行距離が建築基準法で定められた基準内に収まるように設計する必要があります。たとえば、直通階段が利用できない場合には、十分な幅員やバリアフリー対応も求められます。 - 緊急時の視認性向上
非常灯や誘導灯を適切に配置し、停電時でも十分な照度を保てるよう予備電源を装備することが大切です。 - 出入口部の安全性
出入口の扉は、災害時に利用者が容易に開閉できるよう、避難方向に自動的に開く構造(例:自動閉鎖式)を採用します。
開口部の制限について
屋内避難階段の安全性を高めるため、階段室の外壁に設ける開口部(窓や採光用の開口部)には厳しい制限が設けられています。これらの制限は、火災時に外部からの炎や煙が直接階段室に侵入するのを防ぐ目的があります。
- 開口面積の上限
階段室の外壁に設ける開口部は、各々1平方メートル以内でなければなりません。ただし、法第二条第九号の二ロに規定される防火設備(いわゆる「はめ殺し戸」など)である場合は、この制限が適用されないケースもあります。 - 設置位置の基準
外壁に設けた開口部は、階段室以外の建物の他の開口部や外部の壁・屋根から、少なくとも90センチメートル以上離して設置する必要があります。この距離を確保することで、万が一隣接部分から火や煙が侵入した場合でも、階段室内に影響が及びにくくなります。 - 配管等の区画貫通
配管・配線等は屋内避難階段に面する区画壁を原則貫通してはいけません。
これらの規定は、建築基準法施行令第123条の記載に基づくものであり、屋内避難階段の設計においては、これらの開口部制限を厳守することが不可欠です。
詳細については、各種専門資料や確認検査機関の解説記事などで確認するとよいでしょう。
屋内避難階段のメリットと注意点
メリット
- 火災時の安全性向上
耐火構造や防火設備、そして厳格な開口部の制限により、火災時にも安全な避難経路として機能します。 - 屋内環境の管理がしやすい
屋内に設置されるため、外部環境の影響(風雨、雪、凍結など)を受けにくく、常に適切な状態を保つことが可能です。
注意点
- 設置スペースの確保
屋内に設置するため、建物のレイアウトや内部空間の配置計画に影響を与える場合があります。 - 法令の厳守
建築基準法をはじめ、消防法や関連する各種告示に基づいた設計が求められるため、専門知識を持つ設計者や確認検査機関との連携が不可欠です。 - メンテナンスの重要性
定期点検やメンテナンスを怠ると、非常時に機能しなくなるリスクがあるため、管理体制の構築も大切です。
まとめ
屋内避難階段は、火災や災害時における避難安全性を確保するための重要な設備です。建築基準法施行令第123条に基づいた厳しい設置基準を満たすことで、利用者が安全かつ迅速に地上へと避難できるよう設計されています。
また、採光や照明、防火設備、直通性に加え、開口部の制限(開口面積の上限や設置位置の基準)といった要素が一体となって、緊急時のリスクを最小限に抑える役割を果たしています。これから建物の新築や改修を計画する際には、屋内避難階段の設置や管理について十分に検討し、専門家との連携を図ることが重要です。
安全な避難経路を確保するために、屋内避難階段の役割や設計基準、そして開口部の制限について正しく理解し、万全の対策を講じることが、何よりも大切です。

