ダイレクトリターン方式とリバースリターン方式の違い ~冷温水配管における循環バランスと省エネのポイント~
1. はじめに
空調設備の冷温水配管では、各ファンコイルユニット(FCU)やエアハンドリングユニット(AHU)へ均等に水を供給し、確実に還すことが求められます。
しかし、実際の現場では「末端で流量が足りない」「最初の機器だけ流れすぎる」といった循環バランスの不良がしばしば発生します。
この原因の多くは、還り配管(リターン)の取り回し方式にあります。
代表的な2つの方式が「ダイレクトリターン方式」と「リバースリターン方式」です。
一見似ていますが、水の流れ方・圧力損失・施工コスト・バランス調整の手間などに明確な違いがあり、設計段階での選定が重要です。
2. 還り配管方式が重要な理由
冷温水配管は、熱源機(チラー・ボイラ)から各末端機器へ「往き管(供給)」で送られ、「還り管」で戻って循環します。
その中で、どの機器にも同じ流量・温度差で水が供給されるようにしなければ、冷却・加熱能力にムラが出てしまいます。
特に近年は高効率チラーや省エネポンプ制御が普及しており、流量のアンバランスは直接的にエネルギー損失につながります。
したがって、還り方式の選定は単なる配管ルートの違いではなく、「設備の性能を最大限引き出すための基本設計要素」なのです。
3. ダイレクトリターン方式とは
3-1. 配管構成
ダイレクトリターン方式では、熱源機に近い機器ほど往きも還りも短いルートになります。
水が行った道とほぼ同じ経路を最短で戻る方式です。
(例)ダイレクトリターン方式の模式図
┌─────────────┐
│ 熱源機(チラー) │
└─┬──────────┬─┘
│ │
[FCU1] [FCU2]───[FCU3]
│ │ │
└──── └─還り───→──┘
(最も近いFCUが最短距離で戻る)
3-2. 特徴
- 最短ルートで戻るため、配管距離が短く施工コストが安い。
- 施工性が高く、改修や小規模建物で採用しやすい。
- ただし、流量バランスが不均一になりやすい。
3-3. メリット・デメリット
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 配管長 | 短く、材料費が安い | - |
| 施工性 | シンプルで容易 | - |
| バランス | - | 機器ごとに流量差が出やすい |
| 調整 | - | バランス弁の設置・調整が必要 |
| メンテ | 改修時の配管変更が容易 | 流量調整のトラブルが多い |
3-4. 適用例
- 小規模空調システム(事務所・店舗・住宅)
- 機器台数が少ない系統(10台以下程度)
- 既設更新工事など、ルート制約が大きい現場
4. リバースリターン方式とは
4-1. 配管構成
リバースリターン方式では、往き管の最初に接続された機器が、還り管では最後になるように配管します。
これにより、どの機器も「往き+還り」の合計配管距離がほぼ等しくなります。
(例)リバースリターン方式の模式図
┌─────────────┐
│ 熱源機(チラー) │
└─┬──────────┬─┘
│ │
[FCU1] [FCU2]───[FCU3]
│ │ │
└──→──→──→──→──→→──┘
(最初のFCUが最後に戻る)
4-2. 特徴
- 各機器の配管経路が等しくなるため、自動的に流量バランスが取れる。
- バランス弁による微調整の必要が少なく、運転安定性が高い。
- その分、配管距離・材料費・施工手間が増加する。
4-3. メリット・デメリット
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| バランス | 自動的に均等化される | - |
| 運転安定性 | 高い | - |
| 施工費 | - | 配管距離が長くコスト高 |
| 設計 | バランス調整不要 | ルート設計に工夫が必要 |
| メンテ | 流量が安定し機器保護に有利 | 系統変更時の調整が複雑 |
4-4. 適用例
- 中~大規模空調システム(ビル・病院・学校)
- FCU・AHU台数が多い設備系統
- 高効率チラーを使用する省エネ設計案件
5. 両方式の比較表
| 比較項目 | ダイレクトリターン | リバースリターン |
|---|---|---|
| 流量バランス | 不均一(調整必要) | 均一(自動的に平衡) |
| 配管長 | 短い | 長い |
| 施工費 | 安価 | 高価 |
| 設計難易度 | 低い | 高い |
| バランス弁必要性 | 高い | 低い |
| メンテナンス性 | 改修容易 | 系統変更時に注意 |
| 適用建物規模 | 小~中規模 | 中~大規模 |
6. 現場での方式選定のポイント
- 設備規模と系統数
- 小規模・単一系統 → ダイレクトリターン
- 大規模・複数ゾーン制御 → リバースリターン
- 施工コストとスペース
- 天井懐が狭い場合や配管距離が制限される場合は、ダイレクトの方が有利。
- 機械室から長距離配管が必要な場合は、リバースが安定する。
- バランス弁・調整コスト
- ダイレクト方式では末端ごとに**バランス弁(流量調整弁)**を設け、試運転時に差圧を確認しながら調整する必要がある。
- リバース方式では、流量計とメインバルブのみで十分な場合も多い。
- 将来的な増設・改修
- 改修頻度の高いオフィスやテナントビルでは、シンプルなダイレクト方式が柔軟。
- 病院や研究施設など、安定運転が求められる用途ではリバース方式が望ましい。
7. バランス調整と施工上の注意点
- ダイレクト方式の場合、各FCUへの流量を計画値に合わせるため、
バランス弁・差圧計を用いた現場調整が必須。
特に「最初のFCUに流れすぎて末端が冷えない」ケースが典型的なトラブルです。 - リバース方式でも注意すべきは、枝配管内の細かい抵抗差。
継手数・配管径・フレキ長などが微妙に異なると、完全均等にはならないため、主要系統には簡易バランス弁を併設しておくと安全です。 - また、近年の**可変流量システム(VAV・VFDポンプ制御)**では、リバースリターンでも負荷変動時に差圧変化が起こるため、DPセンサー位置やバイパスライン設計も重要です。
8. ポンプ動力と省エネ性
リバースリターン方式は配管距離が長いため、一見するとポンプ動力が大きくなりそうですが、実際には流量バランスが取れることで全体的な圧力損失が低減し、トータルでは省エネになる場合があります。
一方、ダイレクト方式でバランス弁を多数設けて無理に流量を抑えると、逆にポンプ揚程が増し、動力損失を招くこともあります。
設計段階では、「配管距離による抵抗増」と「バランス調整による損失増」を比較検討し、ポンプ動力を最小化する方式を選定するのが理想です。
9. よくある失敗例と対策
| トラブル内容 | 主な原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 末端FCUが冷えない | ダイレクト方式で流量アンバランス | バランス弁・差圧計を追加設置 |
| ポンプ騒音が大きい | 還り系統の抵抗差による共振 | リバース化または流量制御弁で調整 |
| 空調負荷が不均一 | ルート設計の偏り | 等長化・配管径調整 |
| 試運転で流量が合わない | バルブ開度調整不足 | 流量計を併用して再調整 |
10. まとめ
ダイレクトリターン方式とリバースリターン方式は、見た目こそ似ていますが、流量バランスや省エネ性能に大きな差があります。
- 小規模・低コスト重視ならダイレクトリターン
- 安定運転・バランス重視ならリバースリターン
この基本を押さえ、建物規模・負荷分布・将来の拡張性を踏まえて適切に選定することが、空調設備の信頼性向上と省エネ運転の鍵となります。
現場では、「図面上のルート選定=性能の基盤」です。
配管1本の取り回しが、建物全体の快適性とランニングコストに直結する――。
その意識を持って設計・施工に臨むことが、設備技術者としての真価と言えるでしょう。

