冷温水コイルの配管はなぜ「往き下・還り上」なのか 〜正しい接続方法と熱交換の原理を解説〜


■ 導入

空調設備における「冷温水コイル配管の接続方向」は、一見すると些細な違いに見えるかもしれません。
しかし、往き管をコイルの下部、還り管を上部に接続するかどうかは、冷暖房性能やシステムの安定運転に直結する重要なポイントです。

実際、現場では「逆に接続してしまい、冷えない」「エアが抜けず異音がする」といったトラブルが少なくありません。
本稿では、冷温水コイルの構造と流体の性質から、この“往き下・還り上”という基本原則の合理性を掘り下げて解説します。


第1章 冷温水コイルとは?空調設備における役割と基本構造

1.1 冷温水コイルの役割

冷温水コイルとは、空気調和機(AHU)やファンコイルユニット(FCU)などに組み込まれ、冷水または温水を通すことで空気の温度を制御する熱交換器です。
空気側(フィン側)と水側(チューブ側)の間で熱をやり取りし、室内の冷暖房を担っています。

  • 冷房時:冷水を循環 → 空気を冷却し除湿
  • 暖房時:温水を循環 → 空気を加熱

このように、冷温水コイルは空調システムの「心臓部」といえる存在です。


1.2 フィン・チューブ構造と熱交換の仕組み

冷温水コイルは主に銅管(チューブ)とアルミフィンで構成されています。
内部を流れる水の温度差と空気側の流速により、フィンを介して熱交換が行われます。

(図1:冷温水コイルの断面模式図)

要素説明
チューブ水が流れる銅管。往き・還りで2系統を形成
フィンアルミ製の放熱板。表面積を増やして熱交換効率を高める
マニホールド各チューブを束ねる集合管。ここに往き・還りが接続される
ケーシングコイル全体を支持する外枠構造

冷温水はマニホールドを介して各チューブに分配され、空気流に対して**対向流(カウンターフロー)**の形で熱交換を行うのが理想です。


1.3 往き管・還り管とは

冷温水配管における「往き管」と「還り管」は、熱源設備(チラー・ボイラー)との接続方向を指します。

  • 往き管(供給側):熱源から送り出される冷水または温水
  • 還り管(戻り側):熱交換を終え、熱源へ戻る水

つまり、コイルにとっては往きが「入口」、還りが「出口」となります。
この2本の接続位置を誤ると、水流の流れ方やエア抜き性が大きく変化し、性能が半減することすらあります。


1.4 空調設備での使用箇所と規模

冷温水コイルは用途によってサイズや構造が異なります。

設備機器主な使用場所特徴
AHU(空調機)オフィス・商業施設・学校などの大空間大風量・高熱交換効率
FCU(ファンコイルユニット)事務所・ホテル客室小型で独立制御が可能
FPU(フレッシュエアユニット)外気処理専用ユニット冷却・加熱両用の二重コイル構造もあり

これらの機器はいずれも「往き下・還り上」を基本としており、図面にも「FL below supply」「FL above return」などの記載が見られます。


1.5 冷温水コイルの熱交換効率を左右する要素

熱交換性能を最大化するためには、以下の条件が重要です。

  • 流体の流速(レイノルズ数)
  • 流路の均等分配(各チューブへの流量バランス)
  • 空気側との流向(対向流)
  • 水中の気泡・エア溜まりの有無

このうち気泡や空気溜まりは、わずかでも存在すると流路を塞ぎ、伝熱面積の20〜30%が機能しないという報告もあります。
したがって、配管設計では「エア抜け」と「水抜け」を確実にすることが必須です。


第2章 往き下・還り上の接続はなぜ基本なのか

冷温水コイルの配管では、必ずといってよいほど「往き管(供給)を下側に、還り管(戻り)を上側に接続する」というルールが用いられています。この接続は、単なる慣習ではなく、熱交換効率と運転安定性を最大化するための合理的な設計です。

ここでは、この原則の科学的背景を解説します。


2.1 重力と流体の性質を利用した流れの安定化

水には重力方向へ流れようとする性質があり、加えて水中の気泡は比重が小さいため上へ上がるという特徴があります。

往き管を下に接続することで、

  • 入口側の圧力が高くなりやすい(ポンプ圧で押し込める)
  • コイル内部に確実に水が充填される
  • 流れが安定し、熱交換性能が安定する

一方で還り管を上に接続すると、

  • コイルに溜まったエアが上側から自然に抜ける
  • コイル上部にエアベントが設置しやすい
  • 詰まりやキャビテーションが防げる

2.2 熱交換効率を高める「対向流」の実現

熱交換器には、「並流(パラレルフロー)」と「対向流(カウンターフロー)」があります。冷温水コイルでは対向流の方が熱交換効率が高くなるというのが熱工学の基本です。

図2:対向流と並流の比較(イメージ図)

流れの方式特徴熱交換効率
並流水と空気が同じ方向に流れる△ 不均一になりやすい
対向流(推奨)水と空気が逆方向に流れる◎ 温度分布が安定し効率が高い

空調機(AHU)やFCUでは、多くの場合空気はコイルの上から下へ流れる方式が採用されています。この場合、水は下から上へ流した方が空気との温度勾配が一定となり、熱交換効率(K値)が最大化されるのです。


2.3 ショートサーキット現象の防止

もし逆に接続した場合、つまり往きを上側・還りを下側にしてしまうと

  • コイルの上側だけを短絡的に水が通過し(ショートサーキット)
  • 下側の熱交換管へ十分な流れが回らず
  • コイルの一部しか熱交換されないという現象が起きます。

この状態では、熱交換率が30〜50%まで低下するケースもあり、「能力不足」「冷えない・温まらない」というトラブルの原因になります。


2.4 現場仕様書やメーカー標準でも明記される

この「往き下・還り上」ルールは、現場の職人文化だけで継承されてきたものではありません。以下のような資料においても公式の標準仕様として明確に示されています。

  • 空調衛生工学会(SHASE)「設備標準仕様書」
  • 公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)
  • コイルメーカー(日本ピーマック・荏原冷熱・東プレ等)の施工要領

つまり結論として—

「往き下・還り上」は推奨ではなく原則であり標準
これは熱交換理論・流体力学・施工性の3つの観点から成立する最も合理的な接続方法である。


ここまでで、「なぜその配管方向にするのか」の基礎を理解いただけたと思います。

第3章 エア抜き・ドレン対策の観点から見る配管設計

冷温水コイル配管でもう一つ重要なのが、エア噛み(air lock)を確実に防ぐことです。往き下・還り上の接続は、この「エア抜けをよくする」という観点からも理にかなっています。


3.1 冷温水配管でエアが問題になる理由

冷温水配管では、通水初期や運転停止時に配管内へ空気が混入することがあります。この空気は流体より比重が小さいため高い位置に溜まりやすく、この現象をエアポケットと呼びます。

エアが残ることにより、以下のような不具合が発生します。

トラブル事象原因
コイルの一部しか水が流れず能力低下流路に空気が溜まり通水が妨げられる
ポンプのキャビテーション配管内の負圧部に気泡
異音(水撃音・ボコボコ音)水と空気の混在流
配管腐食の促進空気中の酸素が金属を酸化
流量制御が不安定バルブやコイルの流量が脈動

✅つまり空気は「配管の敵」。確実にエア抜き設計をしなければならないのです。


3.2 エアは必ず上に溜まる ― だから還り管は上側に接続する

気泡は水に比べて密度が低いため、重力方向とは逆(上方向)へ移動します。

したがって、コイル内部で最も高い位置にエアが集まるため、その位置に近いところへ還り管を接続するのが合理的です。

さらにその還り配管の近くに自動エアベントエア抜きバルブを設置することで、通水時にエアが自動的に抜け、エア噛みを防ぐことができます。



3.3 ドレン水や凍結対策にも有効

冬期の暖房系統では凍結にも注意が必要です。還りを上側にすると、

✅ 水が配管の低い位置へ自然に排出されやすくなる
✅ ドレン抜きが容易になり、凍結破損を防止
✅ 予備停止時にも安全に水抜きが可能

というメリットもあります。


✅ 第3章まとめ

観点なぜ往き下・還り上にするのか
エア噛み防止還りを上側にしてエアを逃がす
流体安定コイル内の水充填性能を上げる
メンテ性エア抜きバルブを設置しやすい
凍結対策ドレンが抜けやすい

第4章 逆接続するとどうなるか?現場で実際に起きるトラブル

冷温水コイルは「往き管=下」「還り管=上」に接続することが基本ですが、現場では稀に誤って逆接続されてしまうことがあります。配管方向を正しく理解していないケースだけでなく、狭い天井内での施工やバルブ配置の見間違いにより起きることも珍しくありません。

この章では、逆接続によってどのような性能低下やトラブルが発生するのかを具体的に見ていきます。


4.1 熱交換性能の低下 ― 「冷えない・温まらない」状態に

逆接続すると、コイル内の水が上側から下側へ流れようとします。しかし、コイル内にはエアが入り込みやすく、下側のチューブ群にほとんど水が回らない状態になります。

その結果…

  • コイルの上部の一部しか水が流れない
  • 熱交換面積が半減し、冷暖房能力が大きく落ちる
  • 設定風量はあるのに熱交換されず、性能不足が発生

❗ 実際の現場例

  • 夏場の冷房で吹き出し温度が設定より4〜7℃高くなる
  • FCUで冷房時のΔT(温度差)が2〜3℃しか取れない
  • AHUで再熱が効かず、湿度が下がらない

4.2 ショートサーキット現象による偏流発生

逆接続の代表的な不具合に**ショートサーキット(短絡流)**があります。

本来は水がチューブ全体に均一に流れるべきですが、逆接続により水は抵抗の少ない短い流路だけを通って出口へ流れてしまいます。

図4:逆接続時のショートサーキット例(流れイメージ)

通常:全体に流れる    →   理想的な熱交換
逆接続:一部だけ通過 →   流れが偏る(能力低下)

その結果、

現象影響
上部のみ流れる偏流有効熱交換面積が減少
チューブ内の水流が遅いバランス不良・圧力損失悪化
バルブ開度が異常流量制御が成立しない

4.3 エア噛みによる運転不良と異音

逆接続時はエアが抜けにくくなり、常にコイル内部に空気が残る状態になります。すると…

  • 「ボコボコ」「シュー」という異音
  • 水流が途切れることによる脈動と振動
  • 室内機の冷却不足・加熱不足
  • 通水試験で正常値に達しない

この状態が続くと、ポンプに負荷がかかりエネルギーロスも増大します。


4.4 運転コスト悪化・ポンプ負荷増大

逆接続により熱交換性能が落ちると、運転制御が機能しにくくなり、以下の現象が発生します。

項目悪影響
ポンプ常に能力不足補填で高負荷運転
三方弁・二方弁制御開度100%に張り付きやすい
チラー・ボイラー負荷が安定せず省エネ制御不可
ΔT冷温水システムのΔTが取れなくなる

4.5 逆接続に気づきにくい理由

要因詳細
現場確認の不足流れ方向矢印のない配管
バルブ位置の錯覚ハンドル位置を往きと勘違い
シーケンス未チェック起動動作の際に能力不足で気づくことが多い
試運転で判明実は引き渡し直前に発覚する事例多数

結論:逆接続は重大な施工不良

  • 性能低下・エア噛み・バランス不良を必ず引き起こす
  • 「冷えない・温まらない」の代表的原因
  • 通水試験前に必ず配管方向を確認すべき

第5章 冷温水コイル配管の標準構成と必要な付属部品

冷温水コイルを正しく機能させるためには、配管方向(往き下・還り上)だけでなく、付属機器の配置にも規則性があります。正しい配管構成は、通水性・エア抜き性・メンテナンス性・流量制御のすべてを満たす必要があります。

この章では、実務でそのまま使える標準的なコイル配管構成図と、バルブ・ストレーナ・エアベントの配置ルールを詳しく解説します。


5.1 標準的な配管構成(基本形)

冷温水コイルの配管構成は、多くの場合下側に往き、上側に還りの2本配管+バイパス構成がベースです。


【図5:冷温水コイルの標準配管構成(基本例・二方弁制御)】

                ┌───────── エアベント(自動空気抜き弁)
                │
還り管(上) ──┤───┬───────┐
                    │       │
                    ├─→ 調整弁(バランス弁)
                    │
                    └─→ 温度計・圧力計(点検用)
───────┬───────────────
往き管(下) ─┤ ストレーナ → 制御弁(二方弁) → コイル入口
───────┴───────────────

✅ 必須機器

機器名役割
ストレーナコイル内部への異物混入防止
二方弁(制御弁)BMS・温度制御に使用
バランス弁流量調整
エアベントエア抜き
ドレンバルブ水抜き・凍結対策

5.2 二方弁制御か三方弁制御かで構成が変わる

制御方式用途流れ圧力変動特徴
二方弁最近の省エネ設計で主流流量変化制御システムΔP変動ありポンプ変流量制御と相性良い
三方弁(バイパス付き)旧来方式流量一定・バイパス付ΔP安定安定性高いが省エネ性低い

【図6:三方弁制御方式の場合】

往き管 →───┬── ストレーナ ── 三方弁 ──→ コイル入口
              │
              └────────→ バイパス(戻りへ接続)

還り管 ←─────────────────────────────

5.3 エア抜きとドレン抜きの設置ポイント

設置部位必要理由注意点
コイル上部の還り管直近エア抜きの最重要ポイント手動より自動エアベント推奨
コイル下部の往き管水抜き・凍結対策ドレンバルブを設置
補助配管(U字・高低差部)エア溜まり防止立ち上がり部にも設置

5.4 バイパス配管が必要な理由

初期洗浄(フラッシング)や試運転時、制御弁を通さずに水を流す必要があります。そのため、バイパスラインはメンテ性に直結し、以下の場面で重要です。

✅ 使用目的

  • フラッシング時の短時間全流量通水
  • 緊急時のコイル迂回
  • バルブメンテナンス時の仮設運転

第5章まとめ
冷温水コイルは、ただ往きと還りをつなぐだけでは不十分。付属機器の配置ルールまで守って初めて安定運転が成立する。


第6章 施工時の注意点と品質確保のポイント

冷温水コイルの配管は単純に見えて、実は品質を左右する細かな施工要件が多い部分です。特に配管勾配・エア抜き・バルブ配置・ねじれ防止・保温前検査はミスが発生しやすいポイントです。この章では、施工品質を確保するための実践的な注意事項をまとめます。


6.1 配管の勾配と空気溜まり対策

冷温水配管は水平に見えても、わずかな勾配で水や空気が偏流することがあります。

項目推奨
水平配管わずかに還り方向へ上げ勾配(エア抜けを良くする)
立ち上がり管高点にエアベント必須
U字状箇所空気溜まりが発生しやすくNG

ポイント:還り管側が必ず高くなるようにルートを調整する。


6.2 配管応力のかからない接続

コイルのマニホールドは銅管で構成されているため、無理な配管接続をすると応力が加わり破損の原因となることがあります。

対策内容
オフセット配管コイルの接続位置に無理がある場合に使用
フレキ継手振動吸収と据付精度の吸収に有効
仮固定接続後すぐに重量がかからないよう支持を設置

6.3 ストレーナの向きとメンテスペース

ストレーナは必ずゴミが溜まった際に掃除できる方向で取り付ける必要があります。

✅ よくある施工不良:

  • バスケットが上向きになっている
  • 点検口が無く清掃できない
  • 逆方向に取り付けている

対策:ストレーナは必ず水平or45°下向きで設置し、点検スペースを確保。


6.4 制御弁の向きと流れ方向

制御弁(二方・三方)は必ず**バルブ本体に刻印された→方向(FLOW表示)**の通りに流す必要があります。

NG施工例問題
流れ方向が反対バルブ内部のシート損傷
バルブ直前にエルボ流れが乱れ制御性劣化
ポンプに近すぎキャビテーション発生

対策:バルブ前後には10D(配管内径の10倍)以上の直管長を確保。


6.5 保温前に必ず試験と確認を終えること

保温してしまうと、配管接続の不良やバルブの向き間違いを発見できなくなります

✅ 保温前のチェック項目

  • 配管方向(往き/還り)マーキング
  • 制御弁の流れ方向
  • ストレーナの清掃方向
  • エアベントの設置確認
  • 流量調整弁のアクセス確保
  • ナット・フランジの増し締め

第6章まとめ

観点ポイント
配管ルート高点処理とエア抜け
バルブ流れ方向の矢印を確認
ストレーナメンテ性重視
応力フレキで無理な力を逃がす
試験保温前検査が必須

第7章 施工管理者が押さえるべき検査ポイント

冷温水コイルの配管は、一見すると単純なユニット配管ですが、検査を怠ると運転開始後に重大な性能クレーム・水漏れ・逆接続事故が発生します。施工管理者は、配管方向の確認だけでなく、流量・バルブ方向・支持金物・エア抜きまでを包括して品質管理を行う必要があります。

ここでは、実際の現場で使える検査項目とチェックリストを紹介します。


7.1 通水試験前の外観検査ポイント

項目確認内容判定
配管方向往き=下、還り=上で接続されている□合格 □要修正
矢印表示流れ方向矢印が配管に表示されている□合格 □要修正
バルブ制御弁・バランス弁の向きが正しい□合格 □要修正
ストレーナ逆付け・掃除不可の向きになっていない□合格 □要修正
エアベントコイル高所に設置済み□合格 □要修正
フレキ応力緩和部が設置されている□合格 □要修正
支持金物適正間隔・防振対策済み□合格 □要修正

7.2 水張り試験・耐圧試験の基準

試験項目基準
水張り試験所定の時間保持して漏れ・滲みなし
耐圧試験試験圧は設計圧の1.5倍(常用圧に応じる)
試験温度凍結防止のため5℃以上
記録試験記録票を保存(写真記録推奨)

※ 公共工事では**公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)**に基づく。


7.3 通水後のエア抜き確認ポイント

通水初期は最もエア噛みが発生しやすいため、施工管理者は通水時に必ず現場立会いを行うことが望ましい。

チェック内容方法
エア噛みエアベントを開放し、エア抜きを実施
エア音「シュー」「ボコボコ」といった音がしないか確認
ΔT確認冷房時:入口10℃→出口15℃など正常値か
流量制御バランス弁の開度調整

7.4 逆接続を防ぐためのチェックシート(現場用)

表1:配管方向確認用チェックシート

No確認項目判定備考
1図面に往き・還りの表示を確認□OK □NG
2実配管のラベル表示確認□OK □NG
3コイルの下側に往き接続済み□OK □NG
4コイルの上側に還り接続済み□OK □NG
5制御弁の向き確認(FLOW矢印)□OK □NG
6エアベント設置済み□OK □NG
7ストレーナの方向確認□OK □NG
8支持金物の固定状態確認□OK □NG
9保温前検査実施□OK □NG
10写真記録済み□OK □NG

第7章まとめ

  • 冷温水コイルは「通水すれば終わり」ではない
  • 施工検査は配管方向と付属部品の向き確認が最重要
  • エア抜き・逆接続・ストレーナ方向ミスは重大クレームの原因
  • チェックシートによる管理で品質事故は防げる

第8章 設計時の配慮事項と応用的な配管計画

冷温水コイルの配管は施工だけでなく、設計段階からの配慮が重要です。熱源から遠い系統や天井内設置、縦配管の多い建物構成では、水理バランス・エア抜き計画・制御方式の設計を適切に行わないと運転不良やクレームの原因となります。

この章では、実務設計で押さえておくべき応用的なポイントをまとめます。


8.1 天井内設置時のエア抜き設計

天井内にFCUを設置する場合、装置が高所にあるためエア噛みが起きやすいという特徴があります。

✅対策

設計項目対処
エア溜まり装置高点に自動エアベント
メンテ性点検口からアクセスできる位置に配置
立ち下げ配管トラップ状にしないようルート検討
集中エア抜き垂直主管にエアセパレータを設置

8.2 高低差が大きい場合の注意点

建物の階数が多い場合(例:10階建て以上)は、以下の要素が問題になることがあります。

課題内容
静圧過大コイルやバルブの耐圧限界を超える恐れ
サイフォン現象負圧が発生して流れ不安定
ドレイン水逆流凍結や水抜き困難

対策:要所に空気抜き・ドレン弁・真空ブレーカを追加配置


8.3 バルブ制御とΔT(デルタT)設計

冷温水システムでは、**温度差(ΔT)**をいかに確保するかが省エネの鍵になります。

制御方式特徴ΔTへの影響
二方弁変流量制御現代の主流、省エネ向きΔTが取りやすい
三方弁定流量制御安定性ありΔTが小さくなりやすい

設計の重要ポイント

  • ΔT設計温度:冷房側 5〜7℃ / 暖房側 10〜20℃
  • バランス弁で流量を調整
  • バルブは往き管側に設置(一般的)

8.4 三方弁使用時のバイパス設計のコツ

三方弁を使う場合、バイパスの流れが強すぎると熱源側に未使用水が戻り、ΔT不足を招くという問題があります。

✅対策:

  • バイパス側に**絞り弁(オリフィス)**を設置
  • バイパス流量を最大流量の10〜15%に制限
  • 必要なら一次ポンプ変速制御を組み合わせる

8.5 差圧制御と流量安定化

二方弁方式の建物で系統が多いと、バルブが閉じたときに差圧が上がり、流れが過剰になって騒音・振動が発生します。

✅ これを防ぐには:

  • 二次ポンプを差圧制御でインバータ運転
  • 主幹に差圧バイパス弁を設置
  • **流量制御弁(PICV)**を採用(最新の実務対応)

第8章まとめ

観点設計の要点
天井内設置高点エア抜きと点検スペース
縦配管静圧管理・真空ブレーカ
ΔT二方弁制御で省エネ
系統制御差圧制御で流量安定

まとめ ―「往き下・還り上」は現場品質を守る基本原則

冷温水コイルの配管は一見シンプルですが、その接続方向には明確な技術的根拠があります。

✅ 本稿で整理した通り、「往き管は下、還り管は上」にする理由は次の通りです:

観点理由
熱交換効率カウンターフロー(対向流)を実現し能力最大化
流体挙動流れを安定させショートサーキットを防ぐ
エア抜き還り管を上にし、エア溜まりを抜ける構造に
凍結防止ドレン排出が容易になり凍結事故を防止
メンテ性制御弁・ストレーナ・ベントの配置が合理的

✅逆接続のリスクを再確認しよう

逆に接続してしまうと、空調機やファンコイルは次のような不具合を引き起こします。

  • 冷えない/暖まらない(能力不足)
  • エア噛みによる異音・振動
  • 流量バランスが取れず、制御弁が効かない
  • エネルギーロスが発生し運転コスト上昇
  • 引き渡し後に性能クレームにつながる

👉 逆接続は重大な施工不良であり、施工管理上は必ず検査項目に含めるべき重要ポイントであることを忘れてはいけません。


✅コイル配管のベストプラクティス(現場で徹底すべき7か条)

No.実務ルール
1往き管はコイル下部・還り管はコイル上部に接続
2還り管側にエアベントを必ず設置
3ストレーナは必ず往き管側に取り付け、清掃性を確保
4制御弁の流れ方向矢印「FLOW」を確認
5バイパス配管を設け、試運転・フラッシングに備える
6保温前検査で配管方向を必ず確認
7ΔT設計と流量バランス調整を必ず実施

✅技術者としての価値は“基本を守ること”から始まる

冷温水配管のこの基本原則は、装置制御や省エネ運転、建物の快適性を守るための「当たり前の基準」です。しかし施工品質事故の原因の多くは、この基本ルールの見落としから発生します

  • 「図面に書いてあるから」
  • 「いつもそうやっているから」
  • 「たぶん合っているはず」

こうした曖昧な判断ではなく、配管の一つひとつに熱的・流体的な意味を理解しながら施工することがプロの設備技術者の姿勢です。


✅現場での実践 ― 明日からできる改善ポイント

✔ 施工図に往き・還りのフロー矢印を必ず追記
✔ エア抜き位置を設計段階から検討
✔ 逆接続防止のチェックシート】を導入
✔ 試運転前に
吹き出し温度とΔTを必ず確認
✔ 問題があれば
即改善し、記録を残す**


この記事を読んだ皆さんが、設備品質を高める実務の判断基準として活用していただけたら幸いです。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です